『フランケンシュタイン』 ポールステッビングズ脚色・演出
濃密で迫力のある現代の神話のひとつといえるのが『フランケンシュタイン』。
いわゆる怪奇喜劇*を軸に誰にも楽しめる娯楽作品の形をとりながら、実は
この神話に潜む人間の精神の暗黒に鋭いメスで切り込む。
理性を無視した先入観や宗教観念が科学的探究を抑制する権利があるのだろうか。
クローン人間(無性生殖による固体群)を造ることの倫理性とは?
畢竟、人間が人工的に”命を生み出すこと”に意味があるのか。 あくなき科学的探究は許されてよいものか。
この様な我々現代人に差迫った問題がメロドラマ・怪奇喜劇として展開していく。作品の軸になっている孤独なモンスタ-の苦しみを検証しながら、究極のコメディから恐怖の戦慄へと、ラブストーリーからホラーストーリへと、スリラーから悲劇へと…人間の心の闇を彷徨いながら、遂に、奈落の底の底まで我々を連れていく。
深遠なテーマを掘り下げているゴシック風喜劇をユーモアとウイットに富んだ作品に仕立て上げたポール・ステッビングズの手法が見事に発揮されているのが『フランケンシュタイン』である。この流れをくむポールの作品、『シャーロックホームズの殺人』『クリスマス・キャロル』『オリバー・トゥイスト』などはすでにヨーロッパやアジア(日本も含め)、世界30ケ国以上で上演され、エジンバラ国際演劇祭でも賞を射止めるなど、人々を魅了している。
世界的に知られた現代音楽作曲家ポール・フラッシュによる電子音楽がシアターというよりは映画の手法で導入されている。ビジュアル効果に演出の焦点があてられ、弛みのない、小気味のよいテンポでストーリーが展開されていく。畢竟、この作品は多層の聴衆を虜にし、この”フランケンシュタイン”という名が誰しもの心を独特の響きで揺さぶることの意味が明らかになるだろう。
*中世期を背景として怪奇な恐怖的材料を取り扱った18世紀後期19世紀初期にはやった英国小説の一派